乳がんの治療方法を納得して決め、安全に安楽に治療を受け、安心して生活していく上で、適切で正しい情報を得ることはとても大切なことです。初めて歩く夜道では誰でも怖く不安な気持ちになりますが、行く先が確かとなって足下を照らす明かりと地図があるとずいぶん違ってくるように、これからの生活はどのようになるのか、自分が何を知りたいのか、知りたいことの情報はどこにあるかがわかることで不安もずいぶん軽くなるのではないかと思います。
 そこで「乳がんを患う患者さんとご家族が、今知りたいことの正しい情報をわかりやすく得ることができる」ということを目的に本ガイドラインを作成しました。そのために以下のようなことを行いました。
患者会へのアンケート調査から「患者さんが知りたい質問」を取り上げる
自分がどの立場にいるのか、全体の流れが見えるようにして、各立場の患者さんが自分に必要な質問がすぐにわかるようにする
療養上の問題(こころの問題や家族との関係、薬の飲み方、医師とのコミュニケーションの取り方、医療費、緩和ケアなど)を加える
「医師のためのガイドライン(日本乳癌学会編)」を作成した専門医チームが執筆した原稿を基に、「患者のためのガイドライン」となるよう患者・看護師・薬剤師チームが読む人にわかりやすくなるように書き、さらに専門医チームが医学的立場でチェックする
 できる限りの情報をお伝えしたいと考えましたが、紙面の都合上、質問の数や原稿を削らざるを得ませんでした。足りない質問や、より適切な文章や表現方法もあるかと思います。本ガイドラインは数年ごとに改定する予定ですので、次回改訂の際に皆様のご意見を参考によりよいものにさせていただければと思います。
 医療とは科学でありながら不確かなもので、100%とか絶対とか、望むことを必ずしも達成できるかどうかが分からないがゆえに、不安になることもあるのではないでしょうか。しかしその不確かな中で、適切で正しい情報をもとに患者さんと医療者がいっしょに治療方針を考え、患者さんご自身で納得して受ける治療こそが最良の治療ではないかと思います。本ガイドラインが皆様のお役に立つことができ、乳がんを患う患者さんとご家族が安心・納得して治療を受けることができることを願っております。
 最後になりましたが本書の作成にご尽力いただいた関係各位に心より感謝申し上げます。

ガイドラインとは何か、なぜ必要か
ガイドラインによる術後薬物療法と予後
ガイドラインの内容
目指したゴール
1) 告知後、検査・手術を待つ女性
2) 術後薬物療法を受ける若年女性
3) 再発治療を受けている女性

  ガイドラインとは何か、なぜ必要か
米国医学研究所(Institute of Medicine)
医療者と患者が特定の臨床状況での適切な診療の意思決定を行うことを助ける目的で系統的に作成された文書
医師 最新の情報を得て質の高い診療を行うことができる
専門家 標準や推奨を明確にする機会を得る
他の医療者や患者 推奨される診療を理解できる

  ガイドラインによる術後薬物療法と予後
カナダ・ケベック州: 1,541例 (1988-1994)

  ガイドラインの内容

  目指したゴール
乳がんを患う患者さんとご家族が、今知りたいことの正しい情報をわかりやすく得ることができる
本ガイドラインは、乳がん診療に関する医師、看護師、薬剤師等からの説明を補足するものです。
このガイドラインを参考にして、医師、看護師、薬剤師等の医療者と、患者さん、家族との円滑なコミュニケーションを進め、患者さんには、正確で十分な情報に基づいて、納得のいく医療を受けていただくことを日本乳癌学会は望みます。

  1) 告知後、検査・手術を待つ女性
33歳、閉経後女性
検診後の精密検査のため専門病院を受診し、左乳がんと診断されました。これから詳しい検査をした後に入院して手術が必要と言われました。
どんな検査があるの?
どんな治療を受けたらいいの?
どんな手術を受けるの?
私にとってベストは何?
医師には何を、どのように聞いたらいいの?
セカンドオピニオンって何?受けた方がいいの?

■診断から治療法決定の大まかな流れ

  2) 術後薬物療法を受ける若年女性
35歳、閉経前女性
手術後の病理組織結果とこれからの治療の説明があり、抗がん剤治療とホルモン治療と放射線治療を勧められました。再発は防ぎたいけれど、副作用も不安です。また将来子供は欲しいと考えています。
不安だわ
薬や放射線にはどんな副作用があるの?
医療費はどれくらいかかるの?
食事や生活などで注意することは何?
将来妊娠は可能なの?

  3) 再発治療を受けている女性
38歳、閉経後女性
5年前に手術を受け、1昨年リンパ節に再発したため薬の治療を受けています。最近は痛みもあって骨転移によるものと言われています。
これから後はどんな薬が残っているの?
骨転移にはどんな治療があるの?
痛みをどうしたらいいの?
先生にはどこまで話してもいいのかしら?
緩和ケアって何?
友人からサプリメントを勧められたけど…
医療とは科学でありながら不確かなもので、100%とか絶対とか、望むことを必ずしも達成できるかどうかが分からないがゆえに不安になる。しかしその不確かな中で、適切で正しい情報をもとに患者さんと医療者がいっしょに治療方針を考え、患者さん自身で納得して受ける治療こそが最良の治療ではないか。