1) 上司や同僚にとっても大きなショックであると考えておく
「この人になら乳がんのことを話しても大丈夫、と思って同僚に打ち明けたのですが、彼女の方がショックを受けてしまったみたいで…泣かれてしまい困りました」
(30代女性)
 あなたの周囲の人達は、乳がんが20代や30代という年齢でもかかる病気であることや、がんの治療を終えて普通に生活している人がいるということは知らないかもしれません。上司や同僚たちは、あなたが乳がんであるということを聞いたら、きっと驚くでしょう。どう声をかけたらいいのか、何をしたらいいのか見当もつかないのではないでしょうか。
 あなたが一生懸命考えて説明した内容であっても、受け止める相手にとっては突然のことかもしれません。期待していたのとは逆に、あなたがその人をフォローしなければならない状態になる可能性もあります。


  2) シナリオを作っておく
「職場復帰して数カ月して同僚に食事に誘われたのですが、病気のことをいろいろ聞かれて戸惑いました。上司に病気のことを話せたので安心して、あとは夢中で仕事をしていました。もう少し周囲の人達のことも考えておくべきでした」
(30代女性)
 病気や治療のことを全て周囲に話しておきたいと思う患者さんもいますし、できるだけ話したくない、と考える患者さんもいます。周囲の人たちの中で、一日の多くの時間を共に過ごす同僚は、あなたが職場に復帰し慣れてくるのを見て、心配と興味からいろいろ質問したくなるかもしれません。そのような時に備えて、予想される質問とその答えを用意し、聞かれた時にうまく言えるように準備しておきましょう。必要以上のことを言ってしまったり、何か隠しているのではないかと思われるのを防ぐことができます。


  3) 何をして欲しいかを伝えてみる
「治療がひと段落し割合調子の良い日がある一方で、朝から本当につらい日もあります。職場の人達一人一人に伝えるのは面倒で、つい無理してしまいます」
(20代女性)
 乳がんの治療は一人一人異なります。手術だけで数週間で職場復帰できる人もいますし、術後数カ月に亘って治療を継続しなければならない人もいます。副作用や後遺症も一人一人異なるのです。あなたの状態を正確に周囲に伝えられるのはあなただけです。周囲の人達はできるだけあなたの希望を聞いて手伝いたいのですが、どう聞いたらいいのかわからないのかもしれません。仕事をしていくうえで、どんなことが不安で何が困難な点か、上司に伝えてみてはどうでしょうか。それはあなたのわがままではありません。コミュニケーションは理解してもらうための始めの一歩です。まずは、話をする時間をとってもらいましょう。
例) 満員電車での通勤が不安 → 一定期間時差通勤ができないか
  フルタイム勤務が不安  → 段階的にフルタイムに戻していくことはできないか


  4) 一番良い答えは、あなたが持っている
「診断を受けたその足で職場に行って、乳がんだということを上司に伝えました。理解ある人で、『ゆっくり治療を受けて、また戻ってきて』と言われました」
(30代女性)
「小さな職場なので、もしがんと言ったら解雇されると思い、全く別の病名を言い通しました。ウィッグをつけて勤務しましたが、何も言われませんでした」
(20代女性)
 直属の上司には診断や治療の予定を伝えた、という患者さんがいる一方で、病気については一切言わずに別の理由を言って有休をとる、という患者さんもいて、どれが正しい、という答えはありません。職場の規模や形態、業務内容にもよるので一概には言えません。一般的には急な休暇取得などをスムーズにするために、直属の上司には診断や治療の予定を伝えることが勧められます。しかし、あなたの職場のことはあなたが一番よく知っているのですから、最終的にはあなた自身の判断で決めてよいのです。


  5) 退職を考えるのは最後の手段です
「抗がん剤治療の副作用が強いと聞き、働くのは無理だろうと思って退職してしまいました。いまは医療費が負担で、もう少し頑張ればよかったと後悔しています」
(20代女性)
「治療の副作用で脱毛すると聞いて絶望的になりましたが、医療費ねん出のためパートの仕事を何とか続けました。結果的にはそれが治療継続の励みになりました」
(30代女性)
 がんと診断を受けただけでもショックなのに、長期に亘って副作用を伴う治療を継続していかなければならないと知ったとき、心が折れそうになるかもしれません。職場復帰したけれど、心ない言葉に傷ついたり、つらさを分かってもらえずストレスを感じたりして働くことに疑問すら感じることもあるかもしれません。疲れやすく休みがちになったりして、職場や同僚に迷惑をかけたくない、と考え込んでしまうこともあるかもしれません。
 しかし、身体的にも精神的に不安定な時に「退職」というあなたの人生に関わる重要な決定をすることは、避けた方がいいでしょう。信頼できる人にあなたの気持ちを聞いてもらってみたらいかがでしょうか。また、全国のがん診療連携拠点病院にある相談支援センターに相談することもできます。
文責: 城西国際大学 福祉総合学部 福祉総合学科 大松重宏