(1) 乳がん患者の精神的負担と心理的影響
(2) 乳がん体験者の悩みや負担
(3) 気持ちのつらさが与える影響
(4) 乳がん術後患者・家族の精神症状
(5) 若年乳がん患者における精神的影響
(6) 不安の対処について
(7) 子供へ病気を説明する際

  (1) 乳がん患者の精神的負担と心理的影響



  (2) 乳がん体験者の悩みや負担
 乳がん体験者の悩みや負担について、2004年に行われた科学研究山口班の調査により、1,904人の乳がん患者(39歳以下:191人、10.1%)で47.3%が「不安など心の問題」があると回答しました。 
■その内訳は上位から以下の通りです。
1. 再発・転移の不安 1,266件
2. 将来に対する漠然とした不安 757件
3. 精神的動揺・絶望感 614件
4. 死を意識 613件
5. 外見の変化 331件
6. 抗がん剤による副作用の症状 291件
7. がんを意識 219件
8. 子供に対する気がかり 207件
9. 持続する精神的な不安定感 192件
10. 医療費 187件

  (3) 気持ちのつらさが与える影響
 病気になると気持ちがつらくなりそれだけで苦痛に感じますが、気持ちのつらさは以下のような様々な悪影響をもたらします。 
全般的な生活の質(QOL)の低下と関連します
がんに対する治療意欲を奪います
家族の気持ちのつらさとも関連します
入院期間の長期化と関連します


  (4) 乳がん術後患者・家族の精神症状
 図のように患者さんだけでなく、配偶者や子供の気持ちのつらさ
に影響することが報告されています。


  (5) 若年乳がん患者における精神的影響
若年乳がん患者は年齢が高い患者より生活の質(QOL)が低下しやすい
乳房摘出はボディイメージを低下させ性的問題に影響します
患者だけでなくパートナーも抑うつと不安といった気持ちのつらさを経験します
パートナーからの情緒的サポートが女性の心理的適応に重要な影響を与えます
子供も抑うつや不安といった気持ちのつらさを経験します

気持ちのつらさ(抑うつ度)チェックシートでご自身の精神状態をチェックしてみましょう
 以下に抑うつの気持ちのつらさについてのチェックシートを挙げます。
上の2つの項目のどちらかあるいは両方があり、それ以外の3項目以上が2週間以上持続している場合は、専門家に相談することをお勧めします。
■気持ちのつらさ(抑うつ度)チェックシート
近頃憂うつで、気分が落ち込んでいる
何に対しても興味がわかず楽しいと思えない
誰とも会いたくない、話したくない
食欲がわかない、食べ物が味気ない
眠れない、早朝に目が覚めたりする
疲れやすく、何もやる気がしない
落ち着かず気持ちがあせってしまう
決断力がにぶり、物事に集中できない
ささいなことでも自分を責め、くよくよ悩んでしまう


  (6) 不安の対処について
 ほとんどの人にとって病気は初めての経験ですし、不安になったり戸惑ったりするのは、
正常な心の反応です。しかし、不安が強いと日常生活に影響を及ぼすこともあります。
不安は、誰かに聞いてもらえることで軽くなることもありますので、
ひとりで抱え込みすぎずに医療者や家族など周囲の人に話してみましょう。
不安の対処については「患者さんのための乳がん診療ガイドライン」2009年版もご参照ください

気持ちのつらさを軽くするために大切なことは
良好なコミュニケーションです 
■そのためには以下のことを考えてみましょう。
悩みを独りで抱え込まない
悩みや不安を話すことで楽になることもある
思いをわかってもらえることの安心感は大きい
話すことで心の備え準備が得られることがある
自分で抱えきれない時は心のケアの専門家に相談する


  (7) 子供へ病気を説明する際
 乳がん患者が子供へ病気を説明する際には悩むことが多いようです。その悩みの報告と話し方の例を参考にしてみてください。
背景
1. 若年乳がん患者の発症時における学童期の子供がいる割合について
(日本の動向)
   2005年の人口動態統計によると全出生数の母親の年齢別割合は、 25~29歳は31.9%、 30~34歳は38.0%となっています。そのため、子供がいる若年乳がん患者の場合、学童期の子供がいる割合が多いと考えられます。
2. 親のがん罹患による子供への影響について
(海外での報告)
 
1) 心理的苦痛の割合
  親の心身の安定が子供にも影響することが言われ、心理的苦痛を感じている子供の割合は、女児のほうが多いとの報告があります。
2) 心理的苦痛を生じやすい状況
  子供に心理的苦痛が生じやすい状況としては、親がシングル・兄弟がいない・兄弟で一番年長であるといった家族背景や親の心身の状態が悪化した時などが言われています。
3) 子供の心配
  子供の心配事としては、親のがんの副作用(脱毛/嘔吐など)に対する恐れや母親がいなくなる(死んでしまう)のではという心配、独りぼっちにされることへの恐れ、罪の意識 (自分ががんにさせた/自分が親を怒らせた/自分が悪いから見放された)、家事や兄弟の世話をしなければという負担、親の介護の仕方が間違っているのではという恐れ、自分もがんになるのではという困惑、他の人に話すことへの心配、経済的負担への心配などが挙げられています。
3. 乳がん患者が子供へ病気を説明する際の悩みについて
(海外での報告)
  1)乳がんの母親としての思い
 
子供に病気のことを話すのをためらう理由
  ・がんや死についての質問をされるのを避けるため
・病気を知らされることによる子供の不安・苦悩から守るため
・子供が病気を理解できないと思うから
・家族との大切な時間を妨げたくないから
子供と情報を共有したい理由
  ・子供には知る権利がある
・子供との信頼関係を保つため
・子供の不安を緩和するため
親が考える子供とのコミュニケーションで役立つもの
  ・子供の発達や年齢相応の対応の仕方
・病院で子供が専門家に話せる空間
・子供と話すための適切な言葉の情報
・子供は何が理解できて、いかに反応するか
・質問されたときいかに反応したらよいか
  2)乳がん患者の子供の思い
 
親が認識しているよりも、 子供は7歳頃よりがんが生命を脅かす疾患であることを十分認識していました。
多くの子供たちは術後の母親を見る心の準備を必要とし、また化学療法/放射線治療と乳がんの原因の詳細な情報を知りたがっていました。
一部の子供たちは、母親の主治医と話をしたがっていました。


子供とどう話すかの例を挙げます
■学童期の子供をもつ乳がん患者との面接から得られた結果です
ひとつの決まったやり方があるわけではありません
自分のやり方・ペースでかまいません
涙が出るときは率直にきついこともあることを伝えておきましょう
病気は誰のせいでもないことを伝えておく
あなたがいることがちからになることを伝えておく
話をするだけでなく聴いてあげましょう
スキンシップを大切に

乳がん患者と子供の支援小冊子の一例
文責: 独立行政法人 国立病院機構 九州がんセンター サイコオンコロジー科
大島 彰