病気や治療は、ご本人とパートナーの双方にとって大きな出来事です。しかし、お互いの心づかいとコミュニケーションによって、お二人の絆をより深めるきっかけにもなります。


病気がカップルに与える影響
男もつらいよ?
コミュニケーションのヒント
パートナーの方へ


  病気がカップルに与える影響
 図は、2005年に実施した九州がんセンター調査の結果です。約3分の1は診断後に「カップル関係が前より良くなった」、半数は「変わらない」と答え、「前より悪くなった」という人は全体の1割ほどしかいません。多くの場合、乳がんの診断はカップルの関係を変えないか、かえって「雨降って地固まる」効果を与えていることがわかります。またアメリカの研究では、妻が乳がん治療を受けた夫婦の離婚率は一般夫婦と変わらないことも報告されています。
 とはいえ、人間の気分は日によって、また条件によっても変わることが普通です。どんなに堅い絆でむずばれた夫婦や恋人たちでも、病気に向き合うときには、その関係に波風がたつことが少なくありません。しかしそのような波風は、病気がなくても、カップルとして暮らしていくときには必ず経験するものだ、ということも覚えておきましょう。
図 九州がんセンター外来患者調査/パートナーとの関係の変化に対する本人の認識



  男もつらいよ?
 妻や恋人の乳がん発病は、男性パートナーにとっても大きな衝撃です。アメリカのある調査では、夫の40%が不眠や悪夢を、27%が食欲低下を経験し、43%に仕事への集中力が落ちたと答えています。国内の調査でも、夫の41%に軽度以上の気分の落ち込みが、11%に明らかな不安がみとめられています。それらの変化は、時間とともに徐々に軽快するとはいえ、発病後1、2年以上持続することもあります。パートナーが状況に慣れていくにも、それ相応の時間が必要なのです。
 男性パートナーの中には、「男らしさ」のイメージにとらわれるあまり、自分の辛さを妻や恋人の前で正直に表すことができない人もいます。男たるもの、人前で弱音を吐かず女性を守らねばならないと考えている場合、妻や恋人のがん発病にともなう彼自身の悩みを人に相談できないこともあります。男性パートナーが一見平静で無関心に見えても、実はそれは彼自身の不安を押し隠すための自衛手段のこともあります。



  コミュニケーションのヒント
自分の気持ちを伝えよう
   大きな病気は、二人にとって新たな局面です。ときには彼の無理解に腹が立ち、「どうしてわかってくれないの!」という気持ちになることもあるでしょう。しかし、たとえパートナーであっても、あなたの苦労やつらさを肩代わりすることはできませんし、気持ちの変化を100パーセント正しく察することもできません。おそらく彼は、一体どのようにあなたを支えていったらよいのか、とまどっていることでしょう。
 病気になったときこそ、ご自分の気持ちを言葉にして伝えることが大切です。パートナーをはじめとした周囲に負担をかけて申し訳ない、などと思う必要はありません。治療を受け、エネルギーを振り絞って病気に一番立ち向かっているのはあなた自身です。こういうときこそ、ご自分の気持ちや希望を素直にパートナーに伝えましょう。今の心配ごとや、彼にしてほしいことなどです。相手は、あなたから直接聞くことで、行き違いや取り越し苦労の心配なく、あなたの状況にあった手助けをすることができます。
言葉で言ってほしいときもある
   こういうときこそ、「愛してる」「あなたが大好き」と、照れずに伝えましょう。メールや手紙を送ってもよいでしょう。
言葉では伝えきれないとき
   どんな言葉でも伝えきれない感情はあります。そんなとき、黙って手を握ったり、静かに抱きしめたりすることが、千の言葉を超えることもあります。



  パートナーの方へ
毎日、ちょっとした手助けをしよう
   治療を受けるご本人から、「パートナーのちょっとした心づかいや優しさがとても嬉しかった」という声をよく聞きます。大げさでなくともいいのです。たとえば、荷物を持つ、家事を手伝う(風呂場の掃除は特に喜ばれます)、疲れた顔をしていたら「無理しないで休め」と声をかける、というような、ちょっとしたことです。日常生活のさまざまな場面であなたの優しさや思いやりを感じることは、ご本人にとって心癒されることです。それは、ご本人が前向きに治療に取り組むエネルギー源にもなります。
一緒に考えよう
   特に診断直後は考えなくてはならないことが山積みです。多くの方にとって心の準備が整わない時期でもありますが、この時期に治療の選択や、家庭のこと、職場のことなど、決めなくてはならないことが一度に押し寄せて、ご本人は押しつぶされそうな気持になることさえあります。そのようなとき、「君の好きなようにしていいよ」と言ってしまうと、(たとえそのつもりはなくても)ご本人には非常に冷たく突き放したように響いてしまいます。すぐに答えが出なくても、二人で一緒に考えてみてください。一人であれこれ悩むよりも二人で相談したほうがいいアイデアが出ますし、お互いの心配のタネがわかってコミュニケーションに役立ちます。思いがけない誤解をしていたことに気づくこともあります。一つ一つの問題点を一緒に整理することで対応の糸口も見つけやすくなるでしょう。
察するのではなく、聞きましょう
   愛する人が病気にかかるのは、非常につらいことです。何とか役に立ちたいと思っても、苦労やつらさを肩代わりして体験することはできませんし、相手の気持ちの変化を100パーセント正しく察することもできません。ご自分をはがゆく思うことがあるかもしれません。そういうときには、あれこれ察するのではなく、ざっくばらんにご本人に聞いてみましょう。今まで以上にコミュニケーションをとり、ご本人の今の心配ごとや、あなたにしてほしいことなどをざっくばらんに教えてもらいましょう。直接聞くことで、行き違いや取り越し苦労を解消し、ご本人の状況にあった手助けをすることができます。
照れずに愛情を伝えよう
   心細いときこそ、愛情表現の言葉は嬉しいものです。「愛している」「君が大切なんだ」と、(それまで言ったことのないセリフでも)思い切って伝えましょう。面と向かって話すのは照れるという方は、メールや手紙でもよいでしょう。
言葉では伝えきれないとき
   どんな言葉でも伝えきれない感情はあります。そんなとき、黙って手を握ったり、静かに抱きしめたりすることが、千の言葉を超えることもあります。
ご自分のコンディションも大切に
   大切な人の病気は、あなたご自身のコンディションにも少なからず影響するはずです。意識していなくても、心身のストレスがかかっているものです。こういうときは、自分だけで頑張らず、遠慮なく周囲の手助けをうけて、ご自分のからだと心をゆったりさせる時間もとりましょう。一人でゆっくりする時間も必要ですし、そのような時間を確保することに罪悪感を覚える必要はありません。
 
文責: 獨協医科大学公衆衛生学講座准教授 高橋 都